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「あー……うん、乗車券ね?
そっかー、乗車券かぁ……」
「うん? ただでさえ遅れてるんだ。早くしてくれよ」
急かすように踵を鳴らす車掌。
いやいやいやいや。持ってない持ってない。
だってここ、そもそも切符とか売ってなかっただろうよ。
え、なに? インターネットで予約とかしなくちゃいけないわけ?
いやまぁ、お金ないから出来ないんだけどな。
とにかく、俺は乗車券とやらを持ってないことを悟られないように、得意の微笑みフェイスをかます。
「あっはっはっは! いやぁ、今日はいいお天気で!!」
社交性MAXの満面の笑みを前に、ヤンキー車掌さんはおもむろに煙草を取り出すと、怪訝な顔を向けた。
「そうか……?
いいっちゃいいが、少し暑いくらいじゃねぇか?」
車掌は煙草をくわえてマッチを取り出す。
「ホンッッッットその通り!!
はやく車両で涼みたいっすね!」
俺はマッチを奪うように取ると、手際よく火をつけた。
「お、おう……だから早くじょう――」
「じゃあ俺は中入ってるんで!」
マッチを頭上高く放り投げると、相手の脇を擦り抜けるように駆けた。
「ま、待てぇ!!」
俺はまたもや迫る手を手刀で払い、車両内へと駆け込んだ。
――待てぇはないわ。
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