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『仁、俺はもう助からない。死ぬ間際にお前にこれを渡しておく。』
便箋にそれだけしか書かれていない、遺書というには味気なさ過ぎる手紙。
遺書には一枚のチケットが添えられていた。
『異世界行き。』
たったそれだけ書かれた、見た目には普通の紙。
しかし、ハサミを使っても切れない。火で燃やしても焦げない。
傷付けることが出来ない事が異世界の存在をリアルにさせ、この俺に計画をたてさせるまでに心を動かした。
「感謝するぜ親父よ」
俺はこの世界に飽きていた。
持ち過ぎる才も考えもので、中学生にして俺はこの世界に興味を失いつつあった。
親父はそうなってしまうことに気付いていたんだろう。
だからこの手紙を渡した。
ガキの頃から聞かせられていたファンタジーなお伽話も、この時の為だったのかと今更ながら頷く。
「ククク……」
思わず笑みが零れる。
ケータイのサブディスプレイで時間を確認する。
小さな液晶ディスプレイの時間は、そろそろ2時になろうかとしていた。
「時間……だな」
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