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「ようこそ」
不意に、左側から声をかけられる。
そこにいたのは、小さな子供。
寮の受付。
そこで受付嬢のように、囚人服のような横縞模様の服を着た子供がいた。
「遅かったね。長い間、君たちを待っていたよ」
当然のようにそこにいる子供は、そう言って一枚の紙を受付のテーブルに置く。
「この先へ進むなら、ここに署名をして。一応"契約"だからね」
なぜだか、上手く頭が回らない。
その証拠に、今最も重要な事よりも、"契約"と言う、高校生とは無縁な、不穏な響きに顔をしかめていた。
「怖がらなくていいよ。ここからは、自分の決めた事に責任を取ってもらうってだけだから」
付け加えるように「この先に進むと決めたんでしょう?」と子供は静かに微笑みを湛える。
夢遊病のように、意識はあまり関係なしに子供の方に歩み寄り、そこに置かれた紙を覗き込む。
「汝、自ら選び取りし、いかなる結末も受け入れん」
腕から離れ前へ出た奏は、ぼそぼそと呟くように紙に書かれた内容を読み上げる。
「どうぞ」
奏はペンを差し出す子供からそれを受け取り、自らの名前を書いていく。
「……奏?」
呼びかけには反応せず、書き終わると今度は自分にペンを差し出す。
変だ、そう思いながらも差し出されたペンを手に取り、自分の意識が少しハッキリしてきたのを感じた。
そこで脳裏に浮かんだのは、子供のいう『この先』と言う言葉。
それが何を指すのか、幾何か思いを馳せながら、今度は自分の意志で名前を書いた。
「……確かに」
2人分の署名がなされた紙を胸に抱き、子供は窓際に歩いていく。
見上げるように外を望む子供の表情は見えない。
それから直ぐに、僕らの方に向き直る。
微笑みの中に真摯さを携えながら。
「時は、誰にでも結末を運んでくるよ。たとえ、耳と目を塞いでいてもね」
そこまで言って、その子供は窓から月の光が届かない闇へとゆっくり下がっていく。
それを奏と静かに見送り――
「誰!?」
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