12人が本棚に入れています
本棚に追加
「奏、起きて」
左隣に座りながら眠る姉の肩を揺すってやると、目だけを少し開けながら小さく唸り声をあげた。
「あれ、もう着いたの?」
「もうって、それは時間を見てから言ってよ」
そう言いながら、生憎腕時計をしていないので、自分の携帯のディスプレイを見せてやる。
奏は寝ぼけ眼でそれを見ていたが、やがてその事に気づき、覚醒したように目を見開いた。
「え、ウソ! もう0時になるの!」
「電車がだいぶ遅れたからね。……まぁ、姉さんはその間ずっと寝てた訳だけど」
うっ……、とばつが悪そうにうろたえる奏を横目に、電車を降りる準備をする。
「とりあえずもう着くから、早く準備して」
言いながら荷物を纏めるも、奏では反応しない。
やや間があってから尚もばつが悪そうに奏は一つの質問をする。
「ねぇ、大丈夫かな?」
たった一言だが、その言葉には複数の意味が込められていた。
「寮の方はちょっとわからないな。まずは案内にある寮に行くことになってるけど、こんな時間で大丈夫かどうか」
「それにその寮だって集合場所みたいなもので、実際割り当てとかわかんないもんね」
話しながら、電車を降りて改札を通る。
0時まで、あと一分を切った。
「出来れば、0時までには寮で休んでいたかったな」
「……そうだね」
奏が呟いた瞬間、駅から音が消え、辺りは闇に詰まれた。
光は窓から覗く、異様に大きな月の明かりのみ。
駅から外に出ると、街には至る所に血のような赤黒い液体がねっとりとこびりついており、棺のようなオブジェが幾つか立ち並んでいる。
「湊」
「大丈夫。とにかく、寮に急ごう」
不安げな奏を安心させるように声をかけ、歩みを急がせる。
最初のコメントを投稿しよう!