空中禁匣

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「だ、だって… この狭い部屋に二人で暮らすなんて」 「“きょうだい”なんだから問題ないと思いますけど …僕を襲う気ですか?」 誰 が 襲 う か というか今日初めて知り合った二人が姉弟として暮らせるとでも? 私はぐるぐる回る頭で 必死に解決の糸口を探したが 見つからなかった。 「も…もし私が その義務を放棄…というか 住まわせられません、と言ったら?」 私は恐る恐る訊いてみた。 少年は少し首を傾げてから言った。 「あなたを殺します」 その瞳に迷いの色はなかった。 部屋の、否、私の半径1メートルが凍りついた。 あからさまに怯える私の顔を面白そうに眺めてから、学ラン少年はにこっと笑った。 「やだなあ 本気にしないでくださいよ 現代の日本で完全犯罪なんか成立しないんですから」 成立してたら殺るんですか… 顔面蒼白の私をよそに 彼はまた窓の外を見ている。 「いい眺めですね」 この時の私は実に迂闊だった。 ぽつりと呟く彼の横顔を、 守らなくてはと 何故か思ってしまったのだ。 「…わかりました」 覚悟を決めた私の声は 少し震えていた。 「うちに… ここに住んでもいいです」 学ラン少年は眼を見開いて 私を見つめる。 「本当ですか」 「ほ、本当です… 姉としての義務を果たすって決めました」 少年の顔が少し曇ったような気がしたが、それは杞憂だったらしく 悪魔的に、なおかつ嬉しそうに笑ってみせた。 「ありがとうございます」 何種類もの笑みがあるんだな、とぼんやり思いながら私は今度こそ携帯に手を伸ばした。 「それじゃあ私、とりあえず実家にれんら…」 また手首を掴まれた。 でも今度は痛くなかった。 「だから それは困ります」 「どうしてですか? 一応保護者に連絡を入れないと… 私だってまだ学生で未成年なんですよ? こんなこと秘密にできません! き、君だってご両親に連絡をいれないと! 絶対心配してますよ!」
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