空中禁匣

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「あなたはやっぱり幸せな人ですね」 呆れたような声色。 彼は手を離しながら言った。 「え…?」 「あなたのお母さんが僕との同居を許すとでも思っているんですか?」 「た…確かに反対されるかもだけど事情を話せば…」 「話せばわかる? そんなことはあり得ません あなたのお母さんから連絡を受けた伊勢谷博臣が半狂乱で僕を連れ戻しにやってくるのが関の山です」 「でも」 「でもじゃなくて。 僕はもう大人に関わるのは御免なんです だからこそ家を出てここへ… 理解しろとは言わないので受容してください」 「需要?」 「受け容れてください 弟からのお願いです」 「あ、ああ、なるほど… 了解しました」 小難しい言葉を使うんだから… 私は携帯を取るのを諦めてこたつに潜り込んだ。 ずっと緊張状態が続いていたからか、私の下半身はまだ現世に駐在している。 伊勢谷少年のマグにはたっぷりの冷めたミルクティー。 「あの… やっぱりご両親には連絡いれておいた方がいいんじゃないですか? 黙って家を出てきたならきっと心配してるし 捜索願いなんか出されたら大事に…」 はああああ。 大袈裟な溜め息を吐き出し 伊勢谷少年はこたつの上で頬杖をついた。 こたつには入っていないので若干身を乗り出している。 「受け容れてくださいってお願いしたじゃないですか」 「う…受け容れることと従うことは違うでしょう?」 ちょっとだけ格好つけて言ってみた。 それを聞いた 伊勢谷少年は目を細め ふ、と笑う。 「思ったよりしっかり者ですね」 なんだろうこの敗北感。 「…大丈夫ですよ 僕が何処へ行こうとあの人達は心配なんかしませんから」 「そんなことなんで わかるんですかっ?」 「自立してるから」 ジリツ… 自律? 自立!? 私はこぶしを作ってこたつに叩きつけた。 「コスプレですか!?」 「は?」 「社会人が制服着たら それはコスプレなんですよ!?」 「へえ そうなんですか」 その落ち着き払った態度に 私は苛立ちを覚えた。 「そ、そうじゃなくて!」 「でしょうね」 「私より年下で自立なんて信じられませんっ 年齢誤魔化してませんか!?」 「…僕は18歳ですよ あなたの一つ下です なんなら保険証見せますけど?」 伊勢谷少年は制服のポケットから革製の長財布を出して保険証を私に差し出した。 あれ? そんなあっさり証拠物件出しちゃうの?
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