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冬の早朝は好きだ。
きん、と張り詰めた空気
群青色の天
透き通った視界
全部全部
箱の中に閉じ込めて
夏の午後に開けて
味わいたい。
こんなムシノイイ空想をしてしまうのは、寝起きの頭だからだろう。
眼を醒ますと、昨日までとは違う景色が広がっていたので少々驚いた。
私はぼんやりと枕元の時計を確認する。
「ろくじ…」
嗄れた声が出た。
寝返りをうつと、オレンジ色の膜が目に入る。
嗚呼…
徐々に記憶が蘇ってきた。
弟と同居を始めたんだっけ。
もそもそと起き上がり
あくびをすると
部屋の中だというのに吐息が白い。
低血圧の自分が何故こんな早起きをしてしまったのか。
私は詳細な記憶を手繰り寄せる。
昨夜7時には千博くんとの窓口が閉ざされ、私は食器の片付けを始めた。
片付け終わって部屋に戻ると、パチパチとパソコンのキーボードを叩く音が千博くんの領域から聞こえたのだ。
もしかして、仕事…!?
私は息を潜めて
自分のベッドに正座した。
邪魔をしてはいけない
音をたててはいけない
私はぴくりとも動かず
キーボードの音に耳を澄ませていた。
そのまま30分も経った頃だろうか。
千博くんの声がした。
「そんなに気を遣わなくてもいいですよ
…テレビとか…見たければどうぞ」
言葉の途中も
キーボードの音は
途切れない。
「い、いえ…
大丈夫です」
「…良かった
あ、先にお風呂どうぞ」
「ええ!?」
「は?
何かおかしいこと言いました?」
「いいいっいえ全然!!
じゃあお言葉に甘えて…」
お風呂…
私は目眩を起こしかけた。
この狭い部屋の中で…
男の子のいる部屋で…
お風呂。
いや待て待て私。
彼は弟なのだから
何も恥じる必要は…
あるだろう。
出会って1日も経ってないというのに…。
しかしまぁ裸を見られるわけじゃなし。
脱衣所でラブ・ハプニングなど二次元の世界だけ。
私は自分にそういい聞かせながら緊張の中、入浴した。
全然身体が暖まらなかった気がする。
お風呂から出てもまだ
キーボードを叩く音は止んでいなかった。
「お…お先でした」
「はい」
「あ、あのぅ」
「はい?」
「か…髪を乾かしてもいいですか?」
「…ご自由にどうぞ」
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