空中禁匣

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大学に入学して初めての冬を迎えたある日のこと。 大好きな作家の新刊小説を1冊 お気に入りのアーティストが連載を持っている音楽雑誌を1冊 惰性で買ってる長編漫画を2冊 胸がきゅいきゅいするような 話題沸騰の少女漫画を1冊 計5冊を手に入れ、 ご満悦で家路についた。 我ながら買いすぎだとは思うけれども、こればかりは止められないのだ。 好きな本の発売日って何故か重なるよね★ なんて自分に言い訳しながら木枯しの吹く並木道をてくてくと歩いて行くと、私のマンションが見えてくる。 赤茶けた色の、砂糖菓子みたいなマンション。 私はこのマンションの5階の部屋に住んでいる。 503 ああもう、鍵がすぐに出てこない。 実家にいた時は扉に鍵なんか掛けなかったのに。 はやく、はやく! 一刻もはやく新しい本のページを私にめくらせて! 漸く鍵穴に鍵を差し込んで重い扉を開くと 台所やお風呂場の詰め込まれた狭い廊下の向こう、ベランダに面した窓が一直線に目に入る。 窓を全開で出掛けたから 潮風がふうっと部屋を循環している。
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