空中禁匣

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大学からは少し遠いけれど、私はこの海の見える部屋がすごく気に入っているのだ。 「さむ…」 呟くと、屋内にも関わらず吐息が白い。 換気とはいえ、11月に窓全開はなかったな… 急いで部屋に上がり、真っ先に窓をぴしゃんと閉める。 窓の向こうには海と、絵本みたいに小さな遊園地に佇む観覧車がぼんやりと見える。 嘘みたいに素敵な眺めを独り占めにできるこの部屋は 実家のある故郷から切り離されたこの世界で唯一落ち着ける場所。 唯一無二の、居場所。 出来れば誰にも侵してほしくなくて、極力人は招かないことにしている。 こんなに閉鎖的な考え、女子大学生としては良くないんだろうなあと自覚してはいるものの…。 やはりこの部屋は 私だけの空間にしておきたいのだ。 私はいそいそとポットでお湯を沸かし、こたつの電源を入れ、本を読む体勢を整えた。 七畳の部屋の真ん中に、テレビと向かい合うようにどっかり据えられたこたつ。 これが私の排他的インドア思想を加速させているような気がする。 いいですか? 受験生の皆さん。 こたつは天使の皮を被った悪魔です。 羊の皮を被った狼です。 一度足を突っ込めば最後、蟻地獄です。 下半身を別次元へと持っていかれます。 努々惑わされぬよう お気をつけあそばされませ。 …って高校の時の担任が言ってたなあ。 生物の先生だったけど 発言が妙に芝居がかってた。 ぼんやりと思考していると、ポットから電子音が響いた。 「あ…沸いた」 独り暮らしを始めてから 独り言が多くなった気がする。
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