空中禁匣

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実家から持ってきたお気に入りのマグに、インスタントのミルクティーを入れて とぷとぷとお湯を注ぐ。 スプーンで軽くかきまぜて ふぅふぅと一口飲むと 案の定舌を火傷した。 そろそろこたつがいい頃かしらと脚を埋めると 案の定下半身が別次元へと持っていかれた。 下半身を飲み込まれた私は、上半身を最大限に伸ばして放りっぱなしの鞄を引き寄せた。 使い込まれた革の鞄はずっしりと重い。 何故ならたっぷりの書籍がはいっているから。 がさがさと書店の紙袋を幾つか取り出す。 私は小説を買う店、雑誌を買う店、漫画を買う店を使い分ける浮気な女なのである。 いろんな書店を廻りたいんだから仕方ない。 私ほどの書店たらしになると、平積みのセンスやポップの書き方ひとつで 惚れたり、幻滅したり、惚れ直したり…忙しいのだ。 三つの紙袋を並べて、 指先でそっと撫で付ける。 本を買うと、お化粧品や服を買った時よりずっと強い満足感や達成感を得られるから不思議だ。 さて、何から読もう? 小説は…大作だったら読後に打ちのめされて立ち直れないかもしれないし。 雑誌は…特別内容が気になるわけでもないし。 うん。よし、君に決めた。 漫画は一気に読めるし 続きも気になってた。 土曜日の午後の読書大会 読み始めには相応しいよ、君。 脳内の私は大物プロデューサーだった。 六本木をギロッポンとか言っちゃう感じだ。 妄想を振り払って 素の私こと小牧結和子が 手に取ったのは少年漫画。 表紙を一瞥して ぱらりと開いたその瞬間 ピンポーン 鳴り響くチャイム。 侵入者来訪の合図だった。
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