空中禁匣

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どうしてこんな時間に人が訪ねてくるの? 身体が硬直して 読みかけの漫画が 手からこぼれ落ちる エマージェンシー エマージェンシー 侵入者です 頭の中で鳴り響く警報。 断りもなく突然自宅を訪ねてくるような友人は持っていない。 何かの勧誘?新興宗教? それとも…受信料? ピンポーン 少し間を置いて二度目のチャイムが鳴る。 落ち着け。 うちのマンションはオートロック。 まずはエントランスから部屋へ連絡して鍵を開けてもらわなければマンションに入ることも叶わない。 いま鳴っているのは エントランスからの呼び出し音。 まだ部屋の前に誰かが立っているわけではない。 頭の中で整理すると 幾分か余裕が生まれた。 私は二段階の扉で 守られている。 そしてその扉を開けるか否かは私次第だ。 だだだ大丈夫。 とりあえず電話をとろう。 私は即座に別次元から下半身を取り戻し、 エントランス直通の壁掛け電話を恐る恐るとった。 「…はい」 窺うように、慎重に小さく呟いた。 「503号室の小牧さんのお宅ですか? 宅配便なんですけどもー」 その事務的な言葉の調子に、私の侵入者への信頼度は子馬のように跳ね上がった。 なあんだ、宅配便… そういえば昨日実家から 甘栗の渋皮煮を送ると 連絡があった。 私の大好物。 「あ…はいどうぞ」 よそ行きの声で返事してから 開錠のスイッチを押した。 はんこ、はんこ。 あんなにビクつくことなかったな。 私はシャチハタを握りしめ 足取り軽く玄関にスタンバイした。
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