空中禁匣

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「すみませんちょっと… 訳がわからないんですけど…」 突然の昼ドラ的展開。 混乱しない方がおかしい。 「理解が追い付かないのももっともな話です」 「あ…はは」 どうやら気を遣われたらしい。 私は肩までの髪を手のひらでくしゃりと掴む。 シリアスな状況なのに笑みがこぼれてしまうのは私の悪い癖。 「色々と詳しくお話したいのですが… 玄関先で話すような内容でもないのでとりあえずお邪魔していいですか?」 弟疑惑の学ラン男子はにこやかに言った。 「え?あ、はいどうぞ… 散らかってますけど…」 後で知ったことだけど 吸血鬼は招かれないと家に入ることができないらしい。 私はパンドラの扉を大きく開け放った。 扉の陰になっていた所から、ぴかぴかの黒いキャリーバッグが現れた。 弟疑惑の学ラン男子は それを重そうに引っ張って 私の絶対不可侵領域へと 押し込んだ。 私はそれを横目で見ながら 棚からマグをもうひとつ取り出した。 がらがらと音をたてながら廊下を抜けた彼は キャリーバッグを横に置いて、棒立ちで窓を見つめている。 景色に見とれているんだろうか。 その後ろ姿は、扉を挟んで向かい合っていた時より一層華奢に見えた。 「あの、適当に座ってください それから…ミルクティーって飲めますか?」 後ろ姿に話しかける。 弟疑惑の学ラン男子は ゆっくりと振り向いて 「おかまいなく」 とだけ言って、所在無げにこたつの一角に正座した。 こたつに足を突っ込まないので、なんだか座りずらそうだ。
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