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「私の事、おかしいと思わないんですか?」
女性は、きょとん。とすると、
あぁ! と、納得し、くすくすと笑う。
「うちの仕事は、この時代に落ちてきた人を、この時代に合うた姿に、『仕度』するのが仕事」
そして、今度は私の髪を結い始める。
「でも、じゃあ、代金は? さっきの人が払うの?」
私はこの時代? の、お金を持っていないのだから。
「ここに来た人は、そのうち、ここで生きていく事に納得して、元の時代のものを、処分してもいいって、言うてくれはるんよ」
「え?」
「そしたら、それを処分して、お金を作るん。
珍しいもん好きの人は結構いてはるし、高値で売れるから、他のお仕度用の着物なんかを、購入できるんよね」
ここで、生きていく。処分する。
そんな言葉が、私の胸を突く。
そんな私を見て、
「大丈夫。預かりはするけど、許可がない限り勝手に処分はせいへんし」
その言葉に少しほっとする。
でも、気持ちは晴れない。
『ここで生きていく』
その言葉が、胸に突き刺さったままだ。
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