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思った通り、この剣は、地の魔力を無力化することが出来るのだ。
その証拠に、核が無傷の操魔兵を復活させなかった。
俺の故郷──天界で、今も人々に語り継がれている伝説の剣。
かつて天界が窮地に陥ったとき、勇者がこの『天空の剣』で天界を救ったという。
その後何百年と聖堂に祭られ、神と同等に崇められていた。
俺は、聖堂から天空の剣を持ち出した。
悪の大王に支配されていく地上世界を、見過ごせなかったのだ。
「ガブ様」
振り返ると、使用人の服に着替えたミルフィがドアを開けて立っていた。違和感丸出しの甲冑姿と違い、様になっている。
「ご入浴の準備ができましたので、どうぞ」
落ち着いた声のトーンと、優美な所作が心地よい。流石は王家に使える使用人だ。
ミルフィは俺を浴室の前まで案内すると「では、私は食事の準備をしてまいります」とお辞儀をした後、「ゆっくり身体を温めてくださいね、お兄たま」とニッコリ微笑んで立ち去った。
浴室は広くきらびやかだった。
「ふぅ……」
お湯に浸かっていると、カラカラっとドアが開き、使用人姿のガレットが入ってきた。
「姫様から、ガブ様のお背中をお流しするようにと申し付けられました」
「いや、いいよ。自分で洗えるから」
「こっ……このガレットが背中を流してさしあげると言ってるのに、断るというの!?」
「わ……わかったよ。お願いするよ」
ガレットに後ろを向いてもらって、風呂から出て洗い場に腰をおろす。
「ハッ……」
俺の背中を見て、ガレットが息を飲むのがわかった。
もともと、俺の背中には翼があった。天界人は皆そうだ。
しかし地上に降りた今は、翼は皮膚と同化し、刺青のように模様となって背中に張り付いているだけだった。
俺はガレットに、自分が天界人であり、大王を倒すために地上に降りてきたことを明かした。
「こ……この赤い文字は何て書いてあるの……?」
翼の模様の上を横切るように浮かんだ、赤いアザのことだろう。
地上に降りた天界人の身体に現れる刻印。一生消えることは、ない。
「俺の故郷の言葉で『愚者』だ。優雅な天界の生活を捨てた、大馬鹿野郎という意味さ」
ふいに、背中に柔らかな温もりが伝う。
振り向くと、ガレットが俺の背中に頬を寄せていた。
「アヴァロン国を……いいえ、地上世界を……どうかお救いください……」
俺はこの時、自分の道が間違ってないのだと確信した。
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