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高校生の黒美は授業が終わると、カバンを引っ提げて、真っ先に教室を出る。しかし担任教師やクラスメイトたちは特に驚くこともなく、彼女を見送った。最初こそ、いきなり飛びだすものだから、みんな驚いていた。だが、今では日常の風景となり、すっかり慣れてしまった。
真剣な表情で黒美が向かうのは、部活動や図書館、彼氏のもとなどのどれでもない。自宅である。そう、彼女は帰宅部なのだ。このことは学校中に知れ渡り、だれが言いだしたのか、帰宅部エースなどという不名誉な称号まである。
目の前に広がる長い廊下を彼女は一気に駆ける。長く美しい緑の黒髪が大きくなびく。
「こらー、走るな!」
別の教室から、教師の注意する声が響こうと無視。耳を貸す余裕などない。ビュンッと通り抜ける。その勢いにまかせて、今度は階段をおりる。が、そこに汗の匂いをただよわせる男子連中がいた。きっと体育の時間が長引いたに違いない。道を空けずに、塊となってこちらに近づいてくる。
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