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「…以上で証明を終了します」
パチリッ、と暖炉の火が爆ぜた。
広間に集められたすべての人間が、彼の示した証明に息も出来ず、ただ唾を飲み込むしかなかった。
「つまり最初の被害者の、右腕と頭部、そして左足の踝から下を切り取ることが出来たのは、あの時、裸でケチャップを湖に大量に流し込んでいた人物…そう」
その瞬間、探偵は閉じていた目を開いた。
そう子供でも分かる問題だ。2から1を引けば答えは1.つまり犯人は…
「犯人は貴方ですよ」
探偵が指を伸ばすのと同時に、そこにいる全員が振り向いた。指を指された人物は背中を向けて、窓の外の埠頭を見詰めている。
彼は背中を向けたまま、ぼそりと呟いた。
「…さすが…というほか、ありませんね」
振り向いたその顔は、今まで見知っていたはずのものではなかった。
コトリ…この仮面塔の最後の仮面が、落ちた気がした。
探偵は彼の傍に静かに近づいていく。
全員がその道を、さながらモーゼの行進で海が割れるように、道を譲った。
「なぜ、こんなことを…」
「なぜかだって? 君なら分かるんじゃないのか? 犯人を追い詰めるのが楽しくて仕方ない君なら!」
彼は、なぜだか嬉しそうに大声で笑った。その笑い声は、確かにあの夜、聞いたものだった。自然、あの凄惨な夜の記憶が甦る。それは、ここにいる全員が同じようだった。
探偵は強く拳を握り締め、頭を振る。
「ちがう! 僕は…!」
「何も違わないさ。なーにも違わない。そう、違うといえば…」
彼は突然、懐から拳銃を取り出した。誰かが小さな悲鳴を上げる。
「私は殺した。それくらいなもんだよ…願わくば、君がこちらに来ないことを祈っている」
「よせ!!」
探偵は、あわてて手を伸ばした。しかし彼の手は空を切り、大きく前に倒れてしまった。
「…ありがとう」
犯人は優しい顔でそう言うと、拳銃をこめかみにあて、引き金を引いた。
大きな破裂音が、広間にこだまする。その音はこれから永遠に続くような気がした…
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