第一戦…英雄への憧れ

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【1】 背中が痛い。 地面に直接寝るのには慣れたが、背中が痛むのはどうにも慣れない。雨と風がしのげる所だけにこの痛みによる苦痛が勿体無い気がしてならない。 上半身を起こし、両手を上に高く挙げて伸びると固まっていた関節が音を立てる。 最近は戦が起こらない。だから今のうちに修行し、どこかしらの軍に仕官したいところだが。 この近辺では武田の兵士の募集ならばいつでもかかっている。集まる場所も知っている。 立ち上がって鼻をすすった。秋は何故か鼻がつまる。 床に置いてある手の平大の汚い茶色の巾着を取った。中には昨日米を炒った物が入っている。 巾着の紐を緩め、米を炒った物を一掴み取って口に入れる。 生米を炒った物だから柔らかくも美味くも無いが保存は効く。 奥歯で噛み砕くと案の定米が歯に挟まった。気持ち悪さに押されて舌で絡め取る。これも何度目だ。 再び鼻をすすり、壁に掛かっている刀を取って外に出た。 外は秋晴れというのだろうか。良く日が照っている。これならば今年の米も心配無さそうだ。 刀は横に持って歩いてしまうと鞘走るから気を付けて持たないといけない。 顔を見上げると秋の日差しが目に差し込んできた。 あまりの眩しさに目がくらみ、刀を持っていない方の手で影を作った。 しかし少し手が傾いたのか、刀身が鞘から飛び出て地面に落ちた。 顔をしかめ、柄についた土を飛ばす。 手に付いた土を服で払い、刀身を鞘に納めた。
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