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ふと、刀を鞘に納めかけた手を止めてもう一度刀を抜いた。
刀は良く手入れをしており、日の光を受けて白く鋭く光ってくれる。その眩しさに少しだけ目がくらんだが、自分の手入れの行き届いた刀を見て少し口角を上げた。
そのまま鞘を地面に降ろし、刀を両手に持頭の上に上げる。
大きく振りかぶり、素早く真下に振り下ろしたーー。
その刹那にヒュッ、と微かな風の音がした。
振り下ろした場所にあったはずの落ち葉は刀の風圧で頭上に巻き上がった。だがそれを見ることはない。
一つ息をつく。肺に入ってきた秋の風が少しだけ寒さを教えてくれた。
そのまま刀を左から右に大きく振る。
巻き上げられたいくつもの黄色や赤の葉が散り散りに切れた。
目を閉じて自分の太刀筋の余韻に浸った。しかしながら自らの感覚がそれを許さない。すぐに目を開けて切れた葉を拾い上げた。
切り口が波打っている。
まだまだ甘いようだ。
また鼻をすすり、落ち葉から手を放した。
その途端に冷たい風が吹いて落ち葉はまたも天高く舞い上がっていった。
自分もいつかはこうなるのだろうか。
果たしてその風は季節を感じさせてくれる良い風なのか、突風のような悪い風なのか――。
雑兵の自分にはわからないことだ。天下の情勢は知らない。
与えられた僅かな情報を元に敵を斬り裂いていくしか無い。
斬らねば斬られる。
今の世の中、生きる為には人殺しは罪ではない。ただ自分の手で同じ人間の命を奪うのはどうなのかーー。
それを善悪どちらに片付ければ良いかわからなかった。
人を殺せば地獄行き。
だが生きてる間は楽しめる。人を殺さなければ自分が死ぬ。
だが極楽浄土には行ける。一体どちらが幸せなのだろう。
ーーいや、考えるだけ無意味か。
そもそも極楽浄土があるのかわからない。そう思うと自然と考えるのを止めることができた。
刀を鞘に収め、兵を募集しているという武家屋敷へと歩を進めた。
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