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「本多平八郎忠勝……?聞いたことの無い名だな」
忠政は刀を構える。相手が格下であっても油断は絶対にしない。それが彼のやり方であった。
「……父上」
名も知らない強敵に挑む忠政が急に不安になった弥七は忠政の脛当ての辺りを掴んだ。その忠政も決して弥七を無理に振り解こうとはしなかった。
「弥七……木陰に隠れていろ。俺はこの男と決着をつけねばならんようだ」
いつもの暖かい目つきとは反してその眼光は鋭く、人を射るかのようだ。無論弥七からは見えなかったのだが、えもいわれぬ殺気に押されて自然と歩は後ろに進んでおり、気が付けば忠政に言われた通りに木陰に隠れていた。
忠勝はそれを見送り、彼もまた一歩前に出て槍の切っ先を忠政の首に向ける。
「子連れで戦に臨みながらもその子はおろか、自らにも傷一つ付けぬとは流石は音に聞く新田殿よ」
「知っているのか?俺を」
「噂で聞いたのみではあるが、確かに覚えがある。我も戦場に出て未だ傷の付かぬ者だ」
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