第二十六戦…長篠の戦い・其の八

3/13
1296人が本棚に入れています
本棚に追加
/400ページ
「……青い」 忠勝は軽々と後退でかわす。まるで弥七の攻撃を読んでいたかのように。 攻撃をかわされた弥七は唖然としていた。完全に隙を突いたはずだった。 「馬鹿な……!?何故……」 「お前の太刀筋はお前の父のそれと酷似している」 忠勝は槍を地面に付け、弥七の目を睨み付けた。 「父の太刀で我を討ち取ろうとしたその意気やよし。だがそれでは我には勝てぬ」 「……くっ」 弥七は蛇に睨まれた蛙も同然だった。自分の未熟さ故に敵討ちすら出来ないのか――。 「憎しみだけの刀で討ち取られるほど、この忠勝は甘くはない。お前には忠義の心が足りないのだ」 「忠義の……心……」 忠勝の言う「忠義の心」という言葉がやけに胸に突き刺さった。 忠勝を討てさえすればそれで良いと、軍を転々としてきた自分のことを察し、忠勝は哀れんでいるのだろうか。弥七はそんなことすら考えた。
/400ページ

最初のコメントを投稿しよう!