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「甘い!」
忠勝は弥七の行動を見越していたかのように槍の柄で空中に居る弥七の腹を突いた。
「ぐあっ……!!」
あまりの衝撃に手が刀から離れる。刀は地面に突き刺さり、弥七もその近くにうつ伏せに倒れ込んだ。
「三方ヶ原の時、殺すには惜しい存在と思ったが……」
忠勝が弥七に詰め寄る。弥七の後頭部に槍の切っ先を突き付けながら。
「見当違いだったようだな」
「う……くっ……」
具足を着けてはいたが攻撃の威力は弥七の想像よりはるかに強く、まだ立ち上がれない。
(せめて……刀だけでも握らねば……!)
戦場に身を置く者が武器を手放して、ましてや背中から貫かれて死ぬことは出来ない。
弥七は手を伸ばして刀を握り、仰向けになる。忠勝が日の光を遮って弥七の前に佇んでいた。
「言い残したことはあるか、新田忠政のせがれよ」
忠勝は弥七の目の前にずいと顔を寄せた。
「……うるせぇ」
弥七は忠勝の頬に血反吐を吐き飛ばした。
「……織田と徳川みたいなうつけどもの世なんざ……見たかねぇよ」
「……そうか。残念だ」
忠勝は槍を振り下ろした。
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