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「……良い目だ」
忠勝はそれだけ言い残し、槍を引き抜いて弥七の前から立ち去った。
「良い目……か」
何故忠勝は敵を目の前にしてあれほどどっしりと構えていられるのか。弥七はその答えがわかったような気がした。
「弥七!!」
遠くから高い声が聞こえた。
「……お前にはいつも助けられてばかりだ」
弥七は声の主――千代の目を見ることが出来なかった。あの一騎打ちが無謀なのは誰の目から見ても明らかであったのに、それを強行した自分が情けなかった。
「いえ……弥七たちを助けるのは当然です。……先程姉と約束しましたので……」
「……そうか」
弥七はそれ以上聞かなかった。千代の言わんとしていることが汲み取れてしまったからだ。
「正好は?」
「無事です。そろそろこちらに向かってくる頃かと」
千代が言うが早いが正好が二人のいる方へ駆けてきた。
「無事か、正好」
「弥七、千代!! ……撤退だ!! 全軍に撤退命令が降りた!!」
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