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「昌豊と信房が……!? 待て、なら何故昌豊の軍の俺たちは呼ばれないんだ!!」
激昂する弥七が正好の肩を掴んで揺さぶる。弥七の心中は怒りと悲しみで溢れそうであった。
「……それも昌豊殿の意向だ。『弥七と正好、そして千代はここで失うには惜しい存在だ――』そう言っていた」
正好は歯を食いしばっていた。一番悔しいのは正好であるということは弥七も、千代にもわかっていた。
「だから今は撤退するんだ。昌豊殿と信房殿が救ってくれた命……無駄には出来ん」
無理やり気持ちを整理させ、ふと正好の目に肩を震わせる千代の姿が映った。
「……千代?」
正好の呼び掛けは千代に届かない。
「……それじゃあ……姉上は何の為に……!!」
「……千代……」
千代の言葉を止めようとする弥七。しかし千代の気持ちは止まらなかった。身内を目の前で失い、その死が報われなかった。そのことが千代にやりきれない気持ちを募らせていた。
「……涙はもう見せないと決めました……それでも……こんなの……!!」
彼女は顔を伏せて歯を強く食いしばった。涙を見せてはいけないと誓った分、そのつらさは増えていた。
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