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「……だからこそ……生きるんじゃねぇのかよ」
正好も震える声で呟いた。それを聞いて千代が顔を上げる。
「生きたくても生きれなかった奴だって何人も居るんだ。味方にも敵にも……そいつらの為に、俺らは生き続けなきゃならねぇ……」
苦虫を噛み潰したような表情をした正好はそれだけ言って二人に背を向ける。
「……行くぞ」
短く言い捨てた正好は何も動作をしなかった。しかし――二人には彼の失った右手が手招きしているように見えた。
「俺らも退こう。……人の死を無駄には出来ない」
まだ涙ぐむ千代の肩に手を置く弥七。彼はもう「発作」の心配などしてはいなかった。
「みんながそれぞれ重い荷を背負ってる。……人を殺したくて戦場に出る奴なんていない」
「……」
「……まぁ……気楽に行こう」
弥七の放った言葉はあまりにも彼らしくなかった。
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