第二十六戦…長篠の戦い・其の八

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二人に背を向けたまま走り出した正好の後を弥七たちも追った。 正好と千代の具足は弥七のよりもかなり質が良く、金属を用いているために一歩一歩足を踏み出すごとにけたたましい音を立てる。 (……無事にいけば良いが) 撤退を始めたとはいえ三人は味方の軍から孤立し、突出している。それはいつ敵に包囲されてその命を落としてもおかしくない状況。 そんな時でも三人は命を捨てようとは一度たりとも思っていない。少しでも長く生き抜き、再起を図ることを考えていた。 しかしながら絶望的な状況であることには変わりない。本陣が奇襲を受けたということは撤退経路に敵の伏兵がいる可能性をも示唆している。 (――いや、確実に居ると思ったほうが賢明かも知れん) 織田や徳川にとって武田は驚異。信玄という巨星が墜ち、今の弱った武田は確実に潰される。 上杉が攻めてくることは無いとは言え、勝頼は関東の覇者である北条を敵に回している。 ――このままでは滅亡は避けられない。
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