第二十六戦…長篠の戦い・其の八

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弥七の気が他のことに逸れたその瞬間だった。 「残党がいたぞ!! かかれ!!」 「……くそっ!!」 物陰から突如現れた伏兵に弥七は思わず声を上げる。思っていたよりも人数が多く、十五人ほど居そうだ。 前を行く正好との間を伏兵が遮る。 「行かせはせんぞぉっ!!」 「……悪いが付き合っている暇は無い!」 弥七と千代に一斉に刀を振り上げる敵兵。弥七は間合いを見て走る速度を上げ、目の前の敵兵の胸を一人、二人、三人と水平に斬りつけた。 断末魔と共に笠と頬に飛んでくる返り血。この臭いにも慣れた。 「千代、戦闘は避けろ! 撤退することだけに集中するんだ!!」 弥七が斬った後ろに敵は控えていない。背後や横には居るものの、相手をしていたらきりがない。 「了解です!」 千代も彼の後を追う。しかし走る度に射られた傷が熱を持ち、痛みの波が短くなっていく。 (この程度の怪我……!) 再び歯を食いしばる。 弥七や正好の傷に比べたらこのくらい。その気持ちが千代の原動力になっていた。
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