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弥七の気が他のことに逸れたその瞬間だった。
「残党がいたぞ!! かかれ!!」
「……くそっ!!」
物陰から突如現れた伏兵に弥七は思わず声を上げる。思っていたよりも人数が多く、十五人ほど居そうだ。
前を行く正好との間を伏兵が遮る。
「行かせはせんぞぉっ!!」
「……悪いが付き合っている暇は無い!」
弥七と千代に一斉に刀を振り上げる敵兵。弥七は間合いを見て走る速度を上げ、目の前の敵兵の胸を一人、二人、三人と水平に斬りつけた。
断末魔と共に笠と頬に飛んでくる返り血。この臭いにも慣れた。
「千代、戦闘は避けろ! 撤退することだけに集中するんだ!!」
弥七が斬った後ろに敵は控えていない。背後や横には居るものの、相手をしていたらきりがない。
「了解です!」
千代も彼の後を追う。しかし走る度に射られた傷が熱を持ち、痛みの波が短くなっていく。
(この程度の怪我……!)
再び歯を食いしばる。
弥七や正好の傷に比べたらこのくらい。その気持ちが千代の原動力になっていた。
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