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「とかく、正好に任せよう。俺らは待機だ」
「……はい」
落ち着いた千代を見送った後、弥七は正好に顔を動かさずに目だけで合図する。正好も何も言わずに縦に首を振った。
二人に背を向けて正好は歩き出した。一歩一歩踏み出す度に彼の背中は小さくなり、日の落ちていく森に消えていった。
「……何もそんなに遠くに行かなくてもいいんだがな」
「私達に気を遣ってくれたのでしょう。……とはいえ何も話すことはありませんが」
千代はふうっ、と息をついた。ようやく安心して休むことが出来ると思うと気が軽くなるようであった。
そんな千代を見てか弥七も頭を垂れた。自分の脚しか見えない視界は狭く、自分が作り上げた世界を空から眺めているかのようであった。
――しばらくそのままでいると弥七の耳に千代が彼の名を呼ぶのが聞こえてきた。
「……?」
頭を上げると世界は暗くなっていた。どうやらいつの間にか寝てしまっていたようだ。
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