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言った台詞の割には正好が何か気を高揚させている。
「どうした」
「今から俺たちも兵士だ。戦場で功を上げれば偉くなれるぞ」
単純でいいな、という言葉を弥七は飲み込んだ。別に言う必要はない。
「武家屋敷では修行が出来る。いつ来ても構わないが、武具などの取り合いにならんようにな」
門番の男が言うにはどうやら武家屋敷に住める訳ではないようだ。
期待はしていなかったが布団とやらに寝れる機会だった。
だが住めないとわかったなら仕方がない。あの小屋にもうしばらく居るしかない。
「じゃあ俺は帰るぜ」
正好は弥七の肩に手を置き、その場を後にした。
他の兵士も帰っていく中、弥七だけは広場に残った。
「何をしている」
門番の男が弥七に気付いて話し掛ける。
「刀を返してもらう」
「そうだな。……だが……」
「何だ?」
「その口の効き方が気に食わん。お前は俺の部下だ」
弥七は男の言葉を「そうか」と言って流した。
「そうか、じゃないだろ。お前は――」
「俺の部下だとでも言いたいんだろう? 確かに俺はどの軍に行っても雑兵だ」
「……どの軍に行ってもとはどういう事だ」
門番の男が声の大きさをあからさまに落とす。
その様子を見て弥七は少し黙って右手を額に当てた。理由を言うのを躊躇っているというよりも、話したことを後悔しているようだった。
「……そのままの意味だ。北条や佐竹、南部に蘆名。それに山名に細川にも行った。……しかしどの軍も俺のやり方に合わなかった」
男は震えた。
自分よりも身分が下で若干二十歳にしか見えない奴が幾つもの場面をくぐり抜けているとでもいうのか。
軍から脱走するのは容易ではない。しかし目の前のこの雑兵はざっと七つもの修羅場を通過している。
「お前は……何なんだ?」
「俺か? 俺は新田弥七。そこいらの雑兵だ」
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