第一夜

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音が遠ざかっていって、後ろを振り返ってもそいつの姿が見えなかったから、ほっとしと娘の方を向き直ったら、そいつが助手席の窓の外にいた 近くで見たら、頭がないと思っていたのに胸のあたりに頭がついてる 思い出したくもない恐ろしい顔でニタニタ笑っている 俺は怖いを通り越して、娘に近づかれたって怒りが沸いてきて 「この野郎!」 って叫んだんだ 叫んだ途端、そいつは消えて、娘が跳ね起きた 俺の怒鳴り声にびっくりして起きたとかと思って娘に謝ろうと思ったら、娘が 「はいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれた」 ってぶつぶつ言ってる やばいと思って、何とか場を離れようとエンジンをダメ元でかけてみた そしたらかかった 急いで来た道を戻っていった 娘はとなりでまだつぶやいている 早く人がいるとこに行きたくて、車をとばした ようやく街の明かりが見えてきて、ちょっと安心したが、娘のつぶやきが 「はいれたはいれた」 から 「テン…ソウ…メツ…」 にいつの間に変わってて、顔も娘の顔じゃないみたいになってた 家に帰るにも娘がこんな状態じゃ、って思って、目についた寺に駆け込んだ 夜中だったが、寺の隅の住職が住んでいるとこ?には明かりがついてて、娘を引きづりながらチャイムを押した 住職らしき人が出てきて娘を見るなり、俺に向かって 「何をやった!」 って言ってきた 山に入って、変な奴を見たと言うと、残念そうな顔をして 「気休めにしかならないだろうが」 と言いながら、お経をあげて娘の肩と背中をバンバン叩きだした 住職が泊まっていけと言うので、娘が心配だったこともあって、泊めてもらうことにした
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