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戦闘開始から五秒足らずで二人死んだ。
持てる魔力と筋力の総て費やした一撃すら、“ヤツ”にはなんの効果もなかった。
三十秒も経たないうちに、人数は半分になっていた。
俺はまだ生きている。
死んでいったパーティーとの違いは、正直、運が良かっただけ。
俺達は体格差を生かし、壁や天井までも足場にし、所狭しと逃げ回りながら意味の無い攻撃を加えていった。
しかし、“ヤツ”は見た目とは裏腹に素早く、その眼に映った標的を確実に捉え、一撃で葬ってくる。
一分経つ頃には、
俺は独りになっていた。
今まで運良く、的から外れてきたが、
それもここまで。
俺以外に標的がいないんだから、
俺が狙われるのは当然。
狙われれば、確実に死ぬ。
“ヤツ”は尾で強烈な薙ぎ払いを放つ。
向かってくる死神の鎌を前に、
俺は諦め……てはいなかった。
身体が勝手に動いていた。
といっても避けることなど出来ず、剣を盾に防御しただけ。
それすらも無理だと思っていたんだが、狙われるのが判っていたからか、なんとか防御は間に合った。
でも、それだけ。
一応、かなり上等な剣だったんだが、たった一撃でひしゃげ、それでも威力は殺しきれず、身体は壁に激突した。
骨格(フレーム)へのダメージは……考えたくもない。
内臓は……心臓が無事ならいいんじゃないか?
後頭部を強かに打ち付けたらしく、目の前には星が瞬いていた。
そんな視界で捉えた“ヤツ”はすぐさま俺に向き直り、間髪入れずに、頭から突進してくる。
この“間髪入れず”ってのがまた運が良かった。
俺は、壁に背中を打ち付けながらも、全身が痺れていたお陰で、まだ防御の体勢のままだった。
……っても、背には壁。
一応身体は魔力で強化を施してるが……
「間違いなく潰れるよな」
自傷的に微笑みながらそう呟き、
衝撃に耐えれる可能性を夢見ながら、
『レオン』という人間の持てる総ての力を使って、
体長20mにも及ぶ竜の突進を受け入れた。
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