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どうやらこの日の俺は運勢が最高の日だったに違いない。
背にした壁の向こうには空洞が広がっていて、
俺は押し潰されることなく、壁を突き破り、その空間に投げ出されていた。
“運に頼るな”
と、自分に言い聞かせてきた俺が、こう何度も運に助けられるってのは皮肉なもんだ。
とは言え、あの巨体の突進を受け、一瞬だけでも岩肌との間でプレスされたんだ。
身体は無事な訳がなく、ただ“死ななかっただけ”に過ぎない。
状況は依然、“絶望”。
すぐにでも、俺が突き破ってきた壁をぶち破り、“ヤツ”がやってくる。
と、
冷静に状況を分析している最中に、あることに気付いた。
「……明るい?」
その空間は洞窟内という事を忘れさせるくらいに明るかった。
何処かで灯りがついているのか、明らかに人工的な光に照らされている。
俺は光源を探して辺りを見回す。
すると、
「……ッ!」
そこに『奇跡』があった。
太い木の根が蔓のように絡まった、人工物と思われる祭壇。
そこが光源だった。
その中心に突き立てられた『剣』。
“ソレ”を目にした瞬間、俺は“ソレ”に向かって走っていた。
何を思っていたのかは覚えていない。
単に自分の剣が使い物にならなかったから、新しい武器を求めただけなのか。
それとも“ソレ”が何なのかを理解していたのか。
普通なら動く筈の無い身体を、魔力で無理矢理補強してそこまで辿り着き、
なんの迷いも無く、“ソレ”を引き抜いた。
“ソレ”はなんの抵抗もなく抜けた。
そしてその瞬間に、“ソレ”の名を理解する。
「名剣……グラム」
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