一章 1

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名剣グラム』 北欧神話に登場する英雄、『ジークフリート』が竜討伐の際に使用した『竜殺し』の剣である。 「つまりコイツは……『幻想の武具』ってヤツか!」 『幻想の武具』を持って最初に浮かんだ感想ってのが、“別に俺はこの剣に選ばれた訳じゃないな”だった。 本当に選ばれた人間ならきっと自分の手足の様に感じたり、“まさに自分が扱う為に作られた剣!”という風に感じる筈である。 ところがこの剣ときたら、重心やら柄の太さやら色々と俺の使い慣れてた剣と違っていたわけで…… むしろ、どちらかと言うと“扱い難い”部類だった。 「これが『エクスカリバー』だった日には、抜けずに死んでたな」 ハハ、なんて下らない事を言っている内に、壁を破壊しながら、“ヤツ”がやって来た。 「……」 すぐにでも襲い掛かってくるかと思いきや、“ヤツ”はグラムを手にした俺を見据えて、立ち止まっていた。 これが『名剣グラム』であるなら、“ヤツ”が何者なのかが知れる。 “ヤツ”はこの洞窟でこの剣を護っていた。 否、違う。 自らを殺した、天敵とも言えるこの剣が、人の手に渡るのを防いでいた。 つまり、 「宝じゃなく、自分の命を護るために、ここで侵入者を排除していた、だろ?『宝を護る竜(ファーブニル)』」 俺がその名を口にした途端、抜かれてしまった“自らを殺す剣”を見つめていた『宝を護る竜(ファーブニル)』は、怒りの咆哮をあげながら、先刻までとは比べ物にならない程の殺気を俺に向け、襲い掛かってきた。
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