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ファーブニルは振り返る動作を利用して、尾での薙ぎ払いを放つ。
俺は、その攻撃をさっきと同じ様に受け……ずに、フルスイングで打ち返した。
振り返る動作を利用しながらの攻撃を打ち返されたファーブニルは、強制的に意図していた方向とは逆回転で振り返る。
俺はファーブニルがこちらに向き直る前に跳び上がり、完全に向き直ったファーブニルの頭に着地。
それと同時に頭部へグラムを叩き込む。
先程までとは違う、確かな感触。
ファーブニルは痛みを露にする咆哮をあげながら、頭部に乗った異分子を振り落とすべく暴れる。
俺は足場を悪くする前に飛び降り、暴れまわるファーブニルの右前足を渾身の力を込めて一閃する。
「……ッ!」
斬れた。
先程まで、あらゆる攻撃を無効化してきた竜の鱗を突き破り、分厚い筋肉をものともせず、一刀の元に両断した。
それを受けたファーブニルは怒り狂って猛攻撃をして……
来ず、
不利と見て泣き叫びながら撤退……
も、しなかった。
先刻までの咆哮を止め、素早く後方へ飛び退き、距離をおいて俺と対峙していた。
「やはり、まだ“ソレ”には敵わんな」
……?
何かが喋った。
いやいやいや、アドレナリンを抑えて冷静になれ。
“何か”もクソも、ここには俺と“ヤツ”しかいないじゃないか。
「“まだ”ってのは強がりのつもりか?」
驚きは表情に出さず、飽くまで紳士的に、“ヤツ”が喋るのは極当たり前だ、と言った様子で俺は受け答える。
「我は過去にその剣によって滅ぼされた。この世界に現界することで、漸くここまで再生することが出来たが、まだ完全ではない」
「なら今がチャンスって事だな?遠慮無く退治させてもらう」
そう本気で思うんなら、喋ってないでさっさと攻撃すればいい。
だが、とっくに限界を越えていた俺の身体は、無意識に、この会話での休息を求めていた。
「それは叶わさぬ。例え我がどの様な状態であろうと、人が一対一で竜を倒せば、その人間は『英雄』となってしまう」
……?
『英雄』?
そんな聞き慣れている筈の単語に、妙な言霊が宿っていた。
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