序章

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“ソレ”は歩くだけ、否、其処に『在る』だけで世界を滅ぼす“絶対悪”だった。 人類は持てる総ての力を費やして“ソレ”の討伐に当たった。 しかし、 其の総てが無意味に終わった。 有りと有らゆる攻撃手段を用いた。 世界中の銃弾を叩き込み、実験段階だった秘密兵器すらも惜しみ無く使い、果ては核使用の決断まで下した。 にも関わらず“ソレ”は怯むどころか意にも介さぬといった様子で歩き続けた。 人々は唯々絶望する以外の選択枝など与えられていなかった。 だが、 “ソレ”は『敵対する者』 つまり、“ソレ”に対抗し得る者が居る筈である。 其の存在を人々は知っていた。 信心深い教徒は“ソレ”の出現からずっと主に祈り続けた。 そうで無くても“ソレ”の名を知っている者は心の何処かに期待と安心感があった。 あれ程の非常識な存在が現れるなら…… 最早疑う余地は無い。 “ソレ”を滅ぼす『天使』の出現は必然である。 人々はそう信じていた。 しかし、 其の願いは届く事は無かった。 神など居なかった。 否、 居ない訳では無く、 此の世界には現れなかった。 現れていないなら祈りが届く筈など無かった。 人類の味方と呼べるものは何一つとして“現界”しなかったのだ。 もしかしたら“ソレ”も、自らの敵対すべき者を探して歩き回っていたのかも知れない。
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