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辺りも真っ暗闇に包まれた午後7時、スラムの薄汚い家々は明かりを点しました。
それなりに働きに出ていたスラムに暮らす人が、ちらほらと道を行き交います。
しかし右足を失った彼はまだ空の酒樽に腰を下ろしたままでした。
杖代わりの折れた木の棒を正面で固定し、棒に額を押しつけています。
満足に歩くことが出来ない彼は職が無く、住む場所もありません。
たまに冷やかしに来るお貴族様が小銭や残飯を捨てに来るので、それで命を繋いでいました。
ようは、ホームレスです。
ほら、今日もお客様ですよ。
「こんばんは、薄汚い売れ残ったお人形さん♪」
満面の笑みで彼を覗き込むのは、赤いコートを身に纏った人影でした。
真っ白な肌に紫色の瞳、金色の髪は切り揃えたボブが特徴的な愛らしい少女。
彼女は膝を折り曲げて屈みこみ、彼を見上げました。
「ねぇ、今日もマッチ買ってくれないかしら?♪
お父さんに酒買うお金を調達してこいって怒られてるの♪」
そう言って屈託なく笑う彼女は、お金に困っているナリではないのは明らかでした。
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