第一章 弐・友達二人

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「何よりも先んじて教えてやるが、私の一番嫌いなものは『意味の無い嘘』だ。中身のない、くだらない戯言。虫酸が走って、反吐が出る」  少女の顔が、近づく。ナイフよりも尖った目付きで、僕を、睨みつける。竦み上がるような、眼光。  いや、それよりも。  何故この少女は僕の言った名前が、嘘だと分かったんだ。事前に調べていたのだろうか。昨日の今日で? 目立たないことこの上ない、そういう立ち振舞いを常日頃から心掛けている僕の名前を? もちろん、不可能ではないだろう。このご時世だ。人など介さなくても、情報を得る手段などいくらでもある。  でも、違う気がした。  理由も理屈も根拠もないただの勘だけれど、少女にはきっとそんなもの必要ない。そう、思った。 「死にたくなければ、“今後”私の前でくだらない嘘は吐かないことだ」  言って。少女はナイフを引っ込める。そして何事もなかったように、再び歩きだす。  僕は少女の小さな背中をしばらく眺めながら。  今後、ねえ……。  どうやらしばらくは口封じをするつもりは無いらしい。あくまで僕がくだらない嘘とやらを吐かなければ、という話だが。 「さて――」  どうやら僕の中で逃げ出すなんて事はとっくに諦められているらしく、大人しく少女に付いて行こうとして――そこでふと、思い当たる。
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