第一章 参・正“直”者の殺人鬼

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 十分程歩いただろうか。とある建物を前にし、直先輩がぴたりと止まった。慌てて僕も立ち止まる。  直先輩は何も言わない。あれ以来、一度も口を開いていない。けれど、ここが目的地なのだろう。終着点かどうかは別として。  旧図書館だった。  学園の南、大学のキャンパスの近くに新しい図書館が出来たおかげで、今は人気のない蔵書や処分待ちの本を置く倉庫となっている――はずの場所。二階建。大きさはこうして入口に立つだけでおおよそ測りしれないが、少なくとも体育館程度はゆうにあるだろう。一度に千人単位の人間を収容できる建物のと、同程度だ。  ふと、直先輩がこちらを見ていた。先程よりは和らいでいるが、それでも視線は鋭い。そこには殺意というより、敵意が大半に含まれているような気がした。僕の数少ない特技の一つ、自分に向けられた敵意に敏感。  ……まあ、人に嫌われるのは慣れてるけれど。いやはや、殺人鬼――“鬼”にまで嫌われようとは、僕も案外まだまだ捨てたものじゃないのかもしれないな。  なんてくだらないこと考えてる内に、直先輩はさっさと旧図(書館)の中へ向かっていた。  初めて彼女が先行する形になる。「付いてこい」とは言わなかった。典型的な指示待ち世代であるところの僕は、もしかしたら脅迫でもされていた方が気が楽なのかもしれない。おかしな話かとは思だろうが、きっとそんなものだ。指示も脅迫も、僕からしたら何も変わらない。 「まあ、どうでもいいんだけどね」  そう嘯(うそぶ)いて、僕は自分の意識で一歩踏み出した。  旧図の方へと。
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