第一章 零・とある笑い話

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 可憐な少女だった。少なくとも、生前は。  乱れた髪。恐怖に歪んだ顔。途切れた首。つい先ほどまで、壊れたスプリンクラーのように血を吹いていた胴体は既に、ただのナマ物に成り下がっている。  人形にとって一番大切なのは顔である、と男は考える。だから目を付けた獲物の中でも、一番美しいと思うこの少女を選んだ。  なのに何故だろう。  イマハ、  コンナニモ、  ミニクイ。  ミニクイ。ミニクイミニクイミニクイミニクイ。醜い。どうして醜い? 死んでいるからだ。どうして死んでいる? 自分が殺したからだ。どうして殺した? 人形が欲しかったからだ。どうして欲しかった? 何かをしたかったからだ。では、何故――何かをしたいと思ったのか。決まっている。  “自分が人間だからだ”。 「…………ッ」  それは、絵無が生まれて初めて抱いた不快感だった。そして彼は、生まれて初めてであるが故にその感情が何なのか分からず、“何となく”立ち上がり、何となくもやもやした気持ちのまま、何となく“後片付け”をしなければと思い立ち、何となく忌能(ちから)を使おうとした――その時だった。
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