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「“イド”は等しく死ぬべきである」
――声。
静かな。それでいて背中に突き刺さるナイフのような声音に、絵無はゆっくりと振り向く。
少女だった。
絵無が先程手をかけた少女と同じ、13歳前後の少女。夜の闇よりも濃い黒髪は足首に届くほど長く、瞳は瞳で晴れ空のように蒼い。病的なまでに白い肌と、精巧な顔の造りも相まって、まるで人形のような印象を受ける少女だった。
――人形。
絵無は衝撃を受けた。自らが追い求めた物の完成形をそこに見たような気がした。同時に、思い描いていた完成品が、酷くいびつな出来損ないだと思い知る。
『あの少女が一人いれば、それだけで全てが事足り得るではないか』。
一人にして完成品。独りだからこその完成品。究極にして完全の矛盾律。
絵無は、心の底から歓喜した。これもまた、生まれて初めての事である。
「絵無筆依だな。唐突で悪いとはこれっぽっちも思わないが、これからお前を殺す」
少女が、口を開いた。まるで既に起きた事実を並べるかのように淡々とした口調だった。
絵無は応える。
少女の言葉を咀嚼(そしゃく)しながらも、聞こえなかったふりをして。作り物の笑顔で、あくまで自分のペースで事を運ぶ。
「こんばんは。どうしたのですか? こんな夜更けに。君のような女の子が――」
「お前は何型だ?」
処世術とでも言うべき絵無の対応を、少女は脈絡のない質問で一刀両断した。
絵無は一瞬怪訝に思うが、つい反射的に答えてしまう。
「……A型ですが」
その嘘に意味はなかった。本当は、自分の血液型など憶えていない。だからそれは、反射としか言い様がない空言であり、決して見抜かれることも、適当にアタリを付けられることも不可能なはずだった。しかし。
「『憶えていない』、か。お前は嘘吐きだな。反吐がでるよ」
一瞬。
「……なるほど」
少女の言葉に、絵無は確信した。それは根拠のない直感のようなものだったが、だからこそ理論のある論理よりも絵無は信じられた。
『この少女は、自分と“同類だ”』。
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