第一章 四・イド狩り

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 総面積四平方キロメートルというそのあまりの広大さ故に、専用のバスや路面電車が走っている、なんて馬鹿げた事態を体現する未塾学園は、大きく四つの区域に分類される。  一つは、僕が通う東区。第一から第三までの、中学、高校、計六つの校舎とそれに準ずる体育館、グラウンド、職員棟、そして寮生の為の寮が、四つ存在する。特に特筆すべきスポットはないが、しいて言うなら、『犬神池』と呼ばれる大きな池がある。……今さらだが、嫌なネーミングだ。  二つ目が、共働きの教員が子供を預ける保育園などの託児施設から小学校までの、平均年齢が一番低い西区。ほぼ学園の中央に位置する有名なデートスポット、雷桜(かみなりざくら)こと依桜(よりのざくら)も、便宜上この西区に分類される。  三つ目。唯一一般にも解放されている、商店街。小から大まで。個人商店から複合店舗まで。ありとあらゆる個人が、ありとあらゆる企業が、共存する北区。そんな、外の世界においてはあり得ないような業が平気で成り立っているのは、学園の上にいる下上(さかがみ)の力をひとえに示しているとも言える。  下上――その持ち得る権力(ちから)が、その名が示す存在が、あまりに大きすぎて一般には認知されていない、そんな荒唐無稽もいいところの存在がこの世界には確かに存在する。あたかも、“ただそこにあるからそこにあるだけ”といった顔で。案外、僕が直先輩の言う忌能なんてものをいとも簡単に信じられたのは、そういった存在に似たものを知っていたからかもしれない。  下上が存在しているなら、忌能なんてものが存在してもおかしくない。  そう思えるだけの理不尽さが、そう受け入れざるを得ないような不条理さが、下上にはある。
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