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「てめえ、ふざけたこと言ってっとバラすぞ」
牧野は一向に怯える気配の無い青年に苛立ち、右手に持ったナイフの先端を彼に向ける。
「もう、その発言が頭の悪さを露呈してるんだよね。まあ、これから死ぬ君には関係ないか」
そう笑顔で告げられると、彼は顔面を紅潮させ目を大きく見開き、いきり立った様子で青年へと走り出した。
床が軋み、慌ただしい足音と共に二人の距離は縮まる。
そして、右手を後ろに引き、ナイフを更に強く握り締めた。
「死ねぇぇぇ!」
叫び声と同時に飛び散った血液。牧野は一瞬何が起きたのかわからなかったが、バランスを崩した自分の体が床に叩きつけられ激痛が走ったことで現状を理解した。
彼の両下肢は、鋭利な刃で斬り落とされたように、膝から下が吹き飛んでいたのだ。
「ぐあぁぁぁ!」
直後現れた紅蓮の炎が、地面に這いつくばる牧野を呑み込んでいく。
響き渡るのは生き地獄を味わい、のたうち回る男の悲痛な叫び声。
「あっ熱い! 助けてくれ! 俺はまだ死にたくない! 生きるためには仕方なかった! 他にも同じような奴はたくさんいるじゃねえか、許してくれよ! 頼む!」
「無様だね」
「金なら窓の近くにあるケースの中だ! 助けて!」
「……諦めろ」
青年は躊躇うことなく、牧野の死を宣告した。
必死の命乞いは無駄に終わったのだ。
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