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息も切れ切れになり限界が近付きながらも、少年が必死の思いで角を右に曲がった瞬間。
彼の目に飛び込んできたのは、高くそびえ立つ灰色の壁だった。
────行き止まり……。
追い詰められた少年は、その場に力無く崩れ落ちる。
そして、自分はここで死ぬのだと思った。
足は無意識に震え、心臓は大きく脈打つ。
────嫌だ……。来るな!!
怯えた彼の顔を眺めると、口元だけを緩めた男。
その目は獲物を狙う獣のように、不気味な輝きを放っている。
「誰か!」
ようやく発せられた短い叫び。
しかし、無情にもナイフの尖端は少年へ向けられ、死の恐怖に曝されていく。
男が一歩踏み込んだのと、ほぼ同時だった。
少年の目の前に、暗赤色の雨が降ったのは。
「ぐあぁぁぁぁ!」
頬に飛び散る、生温かい血液。
鋭利な刃物で切られたように吹き飛んだ殺人鬼の右腕から、それは降り注いでいた。
「痛い! 助けてぇぇ!」
右肘から下を失い、のたうち回る男を少年は尻餅をついたまま呆然と眺めていた。
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