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部屋の窓から外を眺めると、視界一面に宝石箱を引っくり返したように美しい夜景が広がっている。
さすが、地上三十階だ。
結城は再びジャケットからタバコを取り出すと、火を点け大きく煙を吸い込んだ。
ゆっくりと吐き出した煙は真っ直ぐに進むと、勢いを失いゆらゆらと天井へ向かう。
すると彼は少し煙たそうに両目を細めながら、囁くようにある人の名前を呼んだ。
「翔子……」
それはこの世で彼が唯一愛した女性の名前。
「俺はどうしたら良い? もし君がまだ傍に居てくれていたら、何て言ったかな?」
そう呟く結城の右頬を、一筋の綺麗な涙が伝った。
「情けねぇな……」
さっきまで綺麗に輝いていた外の景色は、ぼやけてよく見えなくなっていた。
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