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朱雀が再び現れる日を翌日に控えた結城は、未だ組織に入るか否か迷っていた。
彼の性格は良く言えば“慎重”。
悪く言えば“優柔不断”なのだ。
そんな今日もいつもと変わらず、喫茶店には客の姿が無い。
タバコをふかしながら、暇をもて余していた。
ふと店の窓から桜の木を眺めると、花弁が舞い散る中に佇む女性の後ろ姿が目に入った。
────あれは、まさか……?
その後ろ姿に見覚えがあった結城は吸いかけのタバコを乱暴に灰皿に押し付け、慌てて店から飛び出した。
ほんの二十メートル程の距離がやけに長く感じられ、乾いた大地を蹴り必死で走っているにも関わらず、流れる景色はとてもスローに見える。
────そんなはずない。だって君はもう……。
頭ではわかっていても、体はいうことを聞かない。
ほんの僅かな可能性でも信じたい。
この時の結城はそんな想いに、突き動かされていた。
桜の木まであと二、三メートルのところで立ち止まると結城は荒くなった呼吸を整え、高鳴る鼓動を感じながらその女性に向かってこう叫んだ。
「翔子!」
時が止まった気がした。
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