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結城は次々と散っていく美しい桜を哀しげな瞳でしばらく眺めた後、息を大きく吸い込み再び思い出話を続けた。
「犯人は未だにわかりません。警察の捜査も途中で打ち切られ、最初は諦めるしかないのかと思っていました。だけど、瞳を閉じると今でも翔子の……彼女の笑顔がはっきりと見えるんです。
その笑顔を守れなくてごめん、ずっと傍にいてやれなくてごめん。今はそう心の中で謝ることしかできない。
本当に情けないですよね……。愛した女一人、守れなかったなんて」
そう告げると、目の前にいる女性は左右の瞳から溢れた涙をポロポロと流していた。
「えっ!? すみません。俺、何かしました!?」
結城は突然のことに慌てふためき、なぜ彼女を泣かせてしまったのかを考える余裕すらない。
すると彼女は濡れた頬を押さえながら頭を左右に振り、言葉ではなく動作で彼の疑問を否定した。
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