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結城は一度大きく深呼吸をしてから微笑むと、優子の肩にそっと右手を当てた。
まだ少し冷たさの残る風に舞う、無数の桜の花びらを眺めながらこう呟く。
「この桜を見ると本当に心が和む。だけどその反面で、とても切なくなるんだ」
綺麗に舞い散る花弁を一枚手に取ると、それを強く握り締めた。
「いつか、翔子の死の真相に辿り着くことができたら。その時は心から笑ってこの桜を見れるかな?」
優子は再び涙を流しながらゆっくりと顔を上げ、その問いに答えた。
「もちろんです。その時は私も笑顔でこの桜を眺めたい。叶わない夢かもしれませんが……」
「えっ?」
「いいえ、何でもありません」
彼女は寂しげな表情を浮かべながら、姉の思い出に触れるように桜の木を見上げていた。
大切な人を助けられなかった悲しみを乗り越え、自らの運命に立ち向かうことを決意した結城。
彼が真実にたどり着いた時、一体どんな想いを抱くのか。
この時はまだ、知る由もない。
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