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黒髪をオールバックにきめ、黒のジャケットを羽織る。
それが緋色結城(ヒイロ ユウキ)二十七歳の、最も好むスタイルだ。
彼は渋谷の一角に『NOIR』(ノアール)という叔父から譲り受けた小さな喫茶店を開いている。
この店には木製のカウンターしか設けられておらず、並べられた丸椅子に腰掛けると窓の外にある桜の木がよく見えるのだ。
外の桜はこの時期、毎年満開になり彼の心を和ませていた。
しかし、一見オシャレなこの店には〝滅多に客が来ない〟という大きな欠点がある。
「暇だな……」
溜め息混じりにそう呟きながら、外の景色をボーッと眺めていると、甲高い鐘の音が久々の来客を告げた。
「いらっしゃいませ! ってなんだ。伸ちゃんか……」
身長は百八十センチ近くあるだろうか。
鬱陶しい髪型に、スーツ姿の男が入って来た。
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