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「なんだとはなんだ。数少ない、貴重な客に向かって失礼だろ」
結城の目の前に位置する席に座り、サングラスを外した茶髪の男はビジネスマンと言うよりはいかにもホストでもやっていそうな風貌だ。
「お客様、いつものでよろしいですか?」
そんな彼に対し、結城はわざとらしくニッコリと微笑みながら、返事を待たずにコーヒーをカップに注いだ。
深みのある香ばしい薫りに、不機嫌そうだった男の表情が緩んでいく。
「どうぞ」
「……相変わらず、旨いな」
男は出されたコーヒーを一口飲むと、満足気に呟いた。
この茶髪の男。
神崎伸一(カンザキ シンイチ)は、渋谷の夜の世界ではそこそこ有名なホストだ。
源氏名を神(シン)と名乗り、十八の時からホストクラブ『MARS』で働いている。
もちろん、店のバックにいる暴力団の幹部にも熱い信頼を寄せられている、超売れっ子なのだ。
結城とは三年程前に彼が偶然、この店に足を運んだことがきっかけで親しくなり、今では唯一の常連客となった。
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