雨宮朔真

3/60
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/174ページ
「朔真、何やっているんだい?」 見えざる壁を突破したのは、癖のある少し長めの茶髪の少年、御島光司。 幼げな顔付きで柔和な笑顔をし、滑らかな細身の体躯を北帝学園の、左胸に小さく“北”と赤い刺繍されている学生服で綺麗に包んでいた。 落ち着きと清涼感のある、テノール調の声で呼ばれた朔真は光司の方へと顔を向けた。 「こうじぃ……」 青ざめ、今にも窓辺から飛び立ちそうな表情を向けながら、朔真は何とも情けない声を出した。 ぱっと見、大人びた容貌をしているが、今は大人っぽさなど毛ほどにも感じられない。 短い黒髪で、中背中肉の体型をし、第二ボタンまで外していた。 「こんな陽気な日にそんなに暗い顔をしているなんて、ペットのチーズでも亡くなったのかい?」 「……俺は天気で気分が左右されるような性格してないし、うちにはペットなんて飼ってない上、飼ったとしてもそんなパン工場にいそうな名前は付けない」 「まるで覇気を感じられない返事だね。言ってる内容が違えば、生返事の良い見本になれそうだ」 はぁ、と脱力する朔真。 言葉にするのを躊躇っているような表情となる。  
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!