明日になれば。

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 僕は〝魔法使い〟になる。  ――とでも言おうものなら、聞いた九割方の人間が嫌悪と同情の視線を投げて寄越し、残りの一割の方々は感涙に咽び泣きながら熱い抱擁を求めて来ることだろう。しかし良くか悪くか、僕は明日に二十の誕生日を迎える身だ。三十路など程遠いし、第一、僕はもうその条件を満たしていない。  二十歳になるまで後一時間足らず。それを過ぎれば、晴れて酒も煙草も飲み放題で吸い放題――飲む気も吸う気も更々ないけど――になり、大人の仲間入りをする訳だ。  とは言っても、成人して何か変わるのかと訊かれた時、僕は前述した実際的な権利を得られること以外は何も答えられないだろう。節目の歳だからとは言え、それだけで性格が変わったり、心境が激変するほどに人間は簡単な生き物ではないのだから。  要するに、成年の権利を享受する気がない僕にとっては単なる通過点でしかなく、変化など何一つとしてない訳である。まあ、それでも義務だけは金魚の糞の如く付いて回るのだけど。  面白くない、とは思わない。  僕は今の緩過ぎず急過ぎずの現状を気に入っている。寧ろ、変化が欲しいとか何だとか吐かす輩の気が知れないくらいだ。  二十歳になろうが三十路になろうが、今のままの生活が続けば良いと思ってる。変化なんて要らない。それが僕の信条だ。  ――ただ、一つを除いて。
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